研究概要 |
我々は平成7年度に培養網膜神経細胞におけるグルタミン酸毒性が,イノシトールリン脂質代謝系の活性化により毒性の増強され,また,アデニル酸シクラーゼ系を活性化すると毒性を抑制することをPKC関連物質,または血管作動性腸管ペプチド(VIP)を用いて確認した。平成8年度は,それらの知見をふまえ,網膜におけるグルタミン酸誘発神経細胞死のメカニズムを検討するために,カルシウム蛍光指示薬であるfura-2を用いて,培養網膜神経細胞内のカルシウムイオン動態を検討した。グルタミン酸により細胞内カルシウムイオン濃度の一過性上昇が認められた。それに対するPKC関連物質,またはVIPの影響を検討したところ,両物質はグルタミン酸による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に影響を与えなかった。また,パッチクランプ法を用い,グルタミン酸誘発内向き電流に対するPKC関連物質またはVIPの影響を検討したところ,両物質は内向き電流に影響しなかった。以上のことから両物質のグルタミン酸神経毒性に対する影響は,グルタミン酸によって引き起こされる細胞内カルシウムイオンの過剰が生じた後の細胞の恒常性の破綻を抑制または促進することによると考えられた。 さらに我々は,網膜のグルタミン酸毒性を抑制する環境として低pH(アシドーシス)を新たに発見した。すなわち細胞外環境をpH7.4から,pH6.0-7.0の低pHにすると,グルタミン酸毒性が抑制される。さらに,パッチクランプ法を用いてグルタミン酸受容体のサブタイプで神経毒性に重要な役割を演じているN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体を介した内向き電流に対する低pHの影響を検討したところ,低pHはNMDA受容体を介した内向き電流を,ほぼ完全に抑制した。よって,低pHによるグルタミン酸毒性の抑制効果は,グルタミン酸受容体の活性化を抑制することによるものと結論した。
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