研究概要 |
血漿ACE比を用いた亜鉛栄養状態の臨床的評価の基礎検討として、血漿内至適亜鉛添加量、添加後反応時間・温度・pHを設定すべく各種条件下に比較検討した。長期に亘り在宅静脈栄養(HPN)を施行中の成人腸管機能不全患者(短腸症候群,クローン病,慢性持発性仮性腸閉塞症など)を対象とし、1mMリン酸緩衝液にてpH8.3に調整した無機亜鉛を血漿に添加した場合、HPN患者群では100μmol/l(等量添加)までACE活性は漸増し、以後plateauに達しほぼ一定の値を示した。以上より、ZnSO_4・7H_2O:150μmol/lを等量添加する方法を用いることにした。血漿ACE比は[無機亜鉛添加後のACE活性-添加前ACE活性]/[添加前ACE活性]として算出され、健常人群(n=28)においてはほとんどバラツキなく0〜3.1%の範囲内にあったのに対し,HPN患者群(n=8)では1.3〜14.7%と健常人群に比べて有意の高値を示した(p<0.001)。 次にHPN患者における亜鉛投与量の増減に伴う血漿亜鉛値、ACE比の変動を観察した。血漿亜鉛値は、観察期間中正常範囲内を推移するものもあったが、全体としては亜鉛投与量減量に伴い低下傾向を示し、減量8週後は前値に比べて有意の低下が認められた。血漿ACE比は亜鉛投与量減量に伴い有意の上昇を示し、投与量を元に増量することにより、ほぼ減量前と同じ値にまで低下した。次に血漿ACE比高値症例を亜鉛欠乏と考え、8%以上の症例に対し亜鉛投与量を40μmol/day増量した際の血漿亜鉛濃度、ACE比の変動を観察した。血漿亜鉛濃度は、投与量増量4週後に有意の上昇を示し、以後も健常域内にあった。一方、血漿ACE比は、亜鉛投与量増量に伴い有意の低下を示し、全例5%以下にまで低下した。 次に実験的検討として亜鉛欠乏ラットを1、3、5週で脱血屠殺し、臓器(肺,腎,肝,腸管,皮膚)を採取、組織内亜鉛濃度、ACE活性およびACE比を測定した。その結果、血漿ACE比は組織のACE比とともに亜鉛欠乏の程度にしたがって上昇し、組織亜鉛濃度と逆の変動を示し、それぞれ有意の相関を示した。 以上より血漿ACE比は組織内亜鉛濃度を反映し、亜鉛栄養状態の指標として血漿亜鉛値より鋭敏であり、簡便なFunctional Indexであることが示された。
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