細胞に自在する高度に制御された生理過程である自壊機構であるアポトーシスが発生途上でも見られる.しかし、その意味するところは今だ不明であるので、上・下顎隆起移行部、上皮性歯胚、唇溝堤でのアポトーシスの出現の波、局在、さらに、死んだ細胞の運命、細胞死の出現した部位のその後の変化を、特に、染色体DNAの断片化をもってアポトーシスとする指標も加えて、形態的に類似しているアポトーシスのこれらの組織での関わりを組織化学的に比較検討を試みた.胎生9日〜19日のマウス胎仔と生後0日の新産仔を用い、4%パラフォルムアルデハイド液にて潅流固定し、パラフィン、凍結包理した.GavrieliらのTUNEL法(1992)により、パラフィン切片をラベルし、DAB反応させた.また、凍結切片から電顕試料を作成した.結果は胎生9日から前頭隆起と下顎隆起の移行部から上顎隆起が形成され、隆起の移行部の多層の上皮にアポトーシスが形成期間を通じて観察された.マウス歯胚は胎生12日から形成が始まり、その歯堤、歯胚上皮、特に、胎生15日の杯状期エナメル結節内にアポトーシスが著明に観察された.また、胎生14日の切歯歯胚の唇溝堤にアポトーシスがみられた.上・下顎移行部でのアポトーシスはkerrらのいうように、細胞がDNAの断片化をおこし、隣接細胞から遊離し、細分化され、隣接細胞などに取り込まれていたが、上皮性歯胚、唇溝堤でのアポトーシスでは、核の濃縮から始まり、遊離し、細分化されず小体状で隣接上皮細胞に取り込まれ、しかも、DNA断片化が観察されたのは、アポトティック小体が隣接細胞に取り込まれてからと思われる.唇溝堤、歯胚ではアポトーシスの出現した後の領域の上皮が分化することから、細胞分化に関係すると思われるが、移行部での違いなどは今後、apoptosis関連タンパク質に対する抗体などを用いて、アポトーシスの開始の兆候などをも調べ、アポトーシスの意味するところを追求する.
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