研究概要 |
種々のグラム陽性菌の細胞表層に分布する両親媒性のリポタイコ酸(LTA)は,グラム陰性菌外膜を構成する内毒素性リポ多糖(LPS)に対応する構造物で,両者は共通の生物活性を示すとの説がある.そこで,我々は口腔レンサ球菌のLTA,特にデンタルプラークから最も高頻度に分離されるStreptococcus sanguis LTAに着目して,歯周組織のサイトカインネットワークに及ぼす作用を検討して,歯周病発症との係わりを探ろうとした. まず,Sigma社製の各種LTAを供試して,歯肉線維芽細胞培養に加えたところ,いずれのLTAも肝細胞増殖因子(HGF)/スキャッターファクター(SF)産生を増強した.特にS.sanguis LTAの活性は強かった.なお,対照とした各種LPSは全く活性を示さなかった.ちなみに,HGF/SFは上皮系細胞に多彩な作用を示すサイトカインとして注目を集めている.次に,歯肉上皮細胞にこれら標品を作用させて,HGF/SF誘導因子であるインターロイキン(IL)-1産生誘導作用を調べたところ,LPSは強い活性を示したが,LTAには活性は認められなかった.更に,リコンビナントヒト(rHu)IL-1αとS.sanguis LTAを併せて歯肉線維芽細胞に作用させると極めて強力にHGF/SFを誘導する事が明らかになった.この様な相乗作用は他のLTAでも認められた.なお,Sigma社製LTAは精製が不十分でLPS等の混入が認められた.従って,これまで報告のあるLTAによる各種サイトカイン誘導作用については再検討の必要があると考えられるが,本研究の成績は精製LTAでも確認されている.最後に,rHuHGFを歯肉上皮細胞に作用させると,期待通り,形態変化と増殖促進作用が認められた. 以上の成績は口腔に最も多数生息する口腔レンサ球菌のLTAが歯周組織を構成する細胞を直接・間接に活性化して組織破壊と治癒の両面で作用する可能性を示唆している.
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