硬組織の構造においてコラーゲンの役割は重要であるが、近年非コラーゲン性タンパク質が注目されるようになり、コラーゲンと結晶の直接的関係に疑いを持つ研究者が多くなってきている。しかし、コラーゲンと結晶との結合関係は完全に否定されたわけではなく、未解決の問題が残されている。本研究ではコラーゲンと結晶の直接的な結合関係を実証する目的で、3段階の実験を計画した。1)硬組織の代表として象牙質を撰び、その結晶成分の性状についてX線回折法、熱分析法、FT-IR法などを用いて解析を行った。この結果から、象牙質結晶は組成の違いが認められ、特徴的な2つのグループに分けることが可能であることが示された。この2つのグループの確実な分類法は加熱後の結晶組成を調べることである。結晶組成を反映して結晶形態に差異が認められ、走査型電子顕微鏡によって確認が可能であった。この2つのグループはまた動物による差を反映しているとも考えることができそうである。2)象牙質のコラーゲンと結晶の関係について、FT-IR法、熱分析法によって解析を行った。従来のコラーゲンの熱分析が低温領域で行われていたことに対して、本実験では従来あまり試みられなかった高温度領域におけるコラーゲンの熱分析を行い、結晶とコラーゲンがある種の強固な結合関係を持っていることが脱灰処理前後の試料を比較検討することによって示された。 以上の実験研究から、象牙質においては結晶とコラーゲンが密接な関係を有していることが明らかにされ、さらに象牙質結晶が変異に富むものであることも示すことができた。しかし、当初予定していた3)コラーゲンの石灰化過程におけるリン酸カルシウムの挙動の解明は時間的制約のため遂行できなかった。
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