研究概要 |
広島大学歯学部附属病院言語治療室を訪れた口蓋裂患者を,経過良好群,やや良好群,および不良群の3群に分類し,やや良好群を除いた2群について,音響学的および空気力学的分析を行った。音響学的分析には,主としてデジタルソナグラフ(KAY社,MODEL4300)の音響分析ソフトウェアおよび空気力学的分析には,ポリグラフ(日本光電製,RM-85)を用いた。その結果,経過不良群では,破裂音調音時の鼻音成分の添加,子音から母音への変移部における摩擦性成分の混在,母音における反共鳴の出現などが見られた。経過良好群では,このような音響学的異常は見られなかった。空気力学的分析では,経過良好群が破裂音pa音調音時の鼻腔開放時と閉鎖時の口腔内圧比0.9より高い値を示したのに対し,経過不良群では,多くの場合,構音障害の重症度と口腔内圧比の値とはほぼ正の相関関係を示したか゚,症例によっては,口腔内圧比が0.9に近い高い値を示しても,構音障害は重度の場合があり,口腔内圧比みのでは構音障害の改善度の指標として不十分であると考えられた。なお,破裂音調音時の母音部の振幅や基本周波数のゆらぎ(jitterおよびsimmer)の増大,有声破裂音においてVOTの長くなる傾向もみられているが,この点は引き続き検索中である。X線映画による解析では,経過不良群は,経過良好群に比べて,嚥下開始と鼻咽腔閉鎖,舌沈下の時間的協調性のずれていることを確認し,さらに,嚥下物の喉頭蓋谷および食堂口到達の様相が,経過良好群と異なる様態を示していることを明かにした。この点の詳細は今後検討を継続する予定である。
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