研究概要 |
唾液腺腫瘍特異的腫瘍マーカーを開発する目的で、上皮性マーカーであるサイトケラチンに着目し、正常唾液腺における蛋白発現を検討した。唾液腺および腫瘍からのサイトケラチン蛋白の分離、精製を行った。サイトケラチンモノクローナル抗体を細胞融合法により作製した。また、将来の唾液腺腫瘍モデルや動物実験の基礎データとしてサイトケラチンの種特異性について調べた。次に多形性腺腫をはじめとした唾液腺腫瘍におけるケラチンファミリーの発現を二次元電気泳動で検討した。唾液腺腫瘍患者の血清中のサイトケラチン19蛋白量を測定し、腫瘍マーカーとしての有用性を評価した。また、腫瘍細胞中で活性の増加するテロメラーゼについても口腔癌および唾液腺腫瘍での検討を行った。【結果】唾液腺では9.5M尿素、5%2ME溶液中で20分の抽出により良好なサイトケラチンの分離、精製が可能となった。ヒト顎下腺には二次元電気泳動でK5,K7,K8,K13,K14,K15,K17,K18,K19のサイトケラチンが存在することを明らかにし、免疫組織学的に局在を同定した。サイトケラチンモノクローナル抗体は合計16個の作成に成功した。唾液腺での反応性は多様であり、すべての上皮性細胞に反応する抗体のほか、基底細胞のみを認識する抗体、基底細胞と筋上皮細胞の持つ共通の抗原決定基を認識する抗体などが得られ、今後の腫瘍マーカーへの応用が期待された。サイトケラチン19を認識するシフラ21・1を用い、唾液腺腫瘍患者の血清中濃度を測定した。良性腫瘍である多形性腺腫では全例正常値以下であったが、粘表皮癌で有意に増加(6.3ng/ml)し、腫瘍マーカーとしての有用性が明らかとなった。悪性腫瘍症例では他の腫瘍マーカー(SCC抗原)よりも鋭敏であった。しかし、腺様嚢胞癌2症例では血清値は低く、腫瘍マーカーとしての意義は乏しいことが明らかとなった。テロメラーゼ活性は唾液腺腫瘍では悪性の指標となる可能性が示唆された。
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