研究概要 |
ラット下顎切歯の穿掘成形による実験的炎症モデルを用いて、歯髄炎症惹起時におけるcyclic nucleotideとprotein kinaseの関与を検討するとともに,酸化亜鉛とユ-ジノールの練和物(ZOE)の填塞が歯髄組織内のcycli nucleotideおよびprotein kinaseに及ぼす影響について検討を行い,以下の結論を得た. 1.ラット,家兎およびヒトの正常歯髄中のcyclicAMP(cAMP)含量は,常生歯であるラット,家兎切歯歯髄組織ではほぼ同値であり,有根歯であるヒト臼歯歯髄組織の2倍以上であることが分かった.一方,ラット,家兎およびヒトの正常歯髄中のcyclicGMP(cGMP)含量は、cAMP含量の10分の1以下であった. 2.ラット歯髄組織内のcAMP含量は穿掘成形による実験的歯髄炎症の惹起に伴い顕著に増加し,処置後30分で正常値の約1.5倍となって最大値を示した.これに対して,穿掘成形部位にZOEを填塞すると炎症惹起に伴うcAMPの増量は完全に消失した. 3.一方,ラット歯髄組織内のcGMP含量は穿掘成形歯髄およびZOE填塞歯髄とも,全ての時間で顕著な変化は認められなかった. 4.歯髄組織におけるcAMPの生成は、ヒスタミン、prostaglandinE_2(PGE_2)で有意に促進され,ユ-ジノールで有意に阻害されることが明らかとなった. 5.ユ-ジノールはcAMPの生成酵素であるadenylate cyclaseのcatalytic siteには直接作用せず,受容体かGTP結合蛋白質に作用してcAMPの生成を阻害する可能性が示唆された.これに対してユ-ジノールはcAMPの分解酵素であるphosphodiesteraseには作用しなかった. 6.ラット切歯歯髄組織から蛋白質リン酸化酵素であるprotein kinaseA(PKA),protein kinaseC(PKC),tyrosine protein kinase(TPK)活性をそれぞれ検出することができた.常生歯であるラット切歯歯髄組織中のPKA,PKC活性は他の動物の歯髄組織に比べて高い比活性を有することが分かった. 7.ラット歯髄組織内のPKA活性は穿掘成形による実験的歯髄炎症の惹起に伴い顕著に増加し,cAMPと同様,処置後30分で正常値の約5.6倍となって最大値を示した.これに対して,ZOE填塞により炎症惹起直後に認められたPKA活性の増加は完全に消失することが明らかになった.このPKA活性の阻害はユ-ジノールの酵素に対する直接作用ではなく,歯髄内cAMPの生成阻害を反映した結果であることが明らかとなり,ラット切歯歯髄においては,cAMP含量とPKA活性が緊密に結びるいていることが分かった. 8.ラット歯髄組織内のPKC活性とTPK活性はいずれも穿掘成形歯髄とZOE填塞歯髄との間で大きな差はなく,穿掘あるいはZOE填塞直後において著明な変化は認められず,処置後2日目から4〜10日目にかけて活性が上昇し,炎症の回復に伴う軟組織・硬組織の新生に関与している可能性が示唆された.
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