研究概要 |
Ca^<2+>注入チタンを,各濃度の硝酸,pH5.2のリン酸-クエン酸緩衝液に一定期間浸漬し,洗浄・乾燥した後,X線光電子分光およぴオージェ電子分光で分析し,Caの溶出とそれに伴う表面化学状態の変化を解析した.その結果,Caは硝酸中で時間の対数に従って減少し,pHが大きいほど減少速度は大きい.Caの減少と共にOも減少し,Tiは逆に増加していた.これは,Ca^<2+>注入チタンの表面酸化層全体がCaTiO_3であるとすると,酸性溶液中ではCa^<2+>が溶出し表面酸化物がTiO_3に近づいていくことに由来する.これに伴って表面水・酸基量が減少した.リン酸-クエン酸緩衝液の場合でもCaの溶出が確認でき,硬組織埋入によって実際にCa溶出が起こることが明らかになった.Caの微量溶出によりCa^<2+>注入チタン表面近傍はリン酸カルシウムに対して過飽和になり,リン酸カルシウムの析出が加速される. キレート反応を利用して,Ca^<2+>注入チタンおよびチタン表面の活性な水酸基量を測定した.また,滴定によって表面改質層を構成する酸化物の零電荷点を測定した.その結果,活性な水酸基量は,Ca^<2+>注入チタン表面のほうがチタン表面よりも多いことが明らかになった.また,零電荷点は,アナターゼよりもCaTiO_3のほうが大きく,体液中では,Ca^<2+>注入チタンのほうが,チタンよりも正に帯電しており,アニオンの吸着が速いことが予想される.すなわち,Ca^<2+>注入チタンはチタンと比較して,荷電サイトが多く,無機イオンやタンバク質の吸着が速く,しかもより正に帯電しているためリン酸イオンの吸着が多く起こり,結果としてリン酸カルシウム析出を加速する.また,Caが表面に存在することもリン酸イオンを引きつける要因となる.以上のチタンとの相違によって,Ca^<2+>注入チタンは良好な骨伝導性を示すと考えられる.
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