研究概要 |
ヒト唾液の主要無機成分である塩化物,炭酸水素塩およびリン酸塩の3成分を含む溶液について,これらの塩の歯科用アマルガムの電気化学的挙動に及ぼす影響を検討した。 実験は市販歯科用アマルガム4種(従来型1種,高銅型3種)を用い,20mM炭酸水素塩,5mMリン酸塩(pH=7)の混合溶液中における繰り返し充放電曲線を電流密度0.25〜2.0mA/cm_2の範囲で測定して行った。 従来型アマルガムの炭酸水素塩溶液中における陽分極電位は著しく高く,リン酸塩添加の影響はほとんどなかった。30mMの塩化ナトリウムの添加は陽分極電位を著明に低下させ,炭酸水素塩,リン酸塩混合溶液中においても塩化物イオンが存在すれば,錫が容易に溶出することを示した。 高銅型アマルガムは炭酸水素塩溶液中における陽分極電位が04〜0.7V(SCE)になるアマルガムと従来型アマルガムと同様に著しく高くなるアマルガムがあった。前者はリン酸塩添加によって陽分極電位が高くなったが,後者ではリン酸塩添加の影響は不用であった。30mMの塩化ナトリウムの添加によって,両者ともに陽分極電位が低下し,塩化銅を生成しつつ溶解することを示した。 高銅型アマルガムの銅の反応をリン酸イオンが抑制する場合があることを考慮すると,腐食を加速する成分で腐食試験液を構成するという観点からはリン酸イオンの存在は無用である。しかし,例えば,口腔内で起こる腐食がリン酸塩皮膜存在の下で進行するならば,口腔内腐食反応を再現させるということから,リン酸塩は必須の成分となり,このような事情は炭酸水素塩についても同じであり,更にこれら抑制成分の詳細な検討が必要であると考えられた。
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