研究概要 |
1)アマルガム修復物から放出される水銀蒸気と臓器,および血液中水銀濃度との関連性を検討するために,妊娠1日目のラット20匹を4群に分け,5匹はアマルガムを充填しない対照群,残りの15匹を実験群とし,ラットの上顎臼歯にアマルガムをそれぞれ1歯,2歯および4歯充填後,一匹づつ代謝ケージ内で飼育し,水銀蒸気の測定を20日間の妊娠期間中に3回,それぞれ24時間行なった.充填直後の測定ではかなり多くの水銀蒸気が検出さたれ.充填7日後では充填直後と比較して減少する傾向が認められたが,エサの摂取時に増大を認め,この現象は充填14日後にもみられた.臓器中水銀濃度は充填歯数に比例して増加する傾向が認められ,水銀の臓器内分布は母親では腎臓に多く,脳では少なかった.胎児では肝臓に多く認められ,母親と胎児では水銀の臓器内分布が異なっていた.血液成分において,実験群の母親,および胎児の全血中の水銀濃度は対照群よりも有意に高く,実験群間ではアマルガム充填の歯数に比例して増加が認められた.母親の血漿,および血球中の水銀濃度も全血と同様の結果が得られたが,有機水銀と親和性が高い血球中水銀濃度の増加は,無機水銀と親和性が高い血漿と比較して少なく,これらの結果より,アマルガムから放出される水銀蒸気の生体内での化学型は主として無機水銀であると考えられる.2)生体内に取り込まれた水銀の化学型(無機,あるいは有機水銀)を明確にするために,Magos法により臓器,および血液成分中の水銀の分離定量を試みたが測定できなかった.原因としては検出感度から考えられ,他の方法としてガスクロマトグラフによる分析が可能であるが,当大学にはその設備がなく現状では不可能であるが,化学型の解明はきわめて重要であると考える.3)生体内に取り込まれた水銀の蓄積と排泄を検討するために,尿中水銀濃度を2日毎に測定した.尿中水銀量は金属水銀蒸気,あるいは無機水銀への職業上の暴露を評価する場合の最も有用な指標のひとつであるといわれている.尿中へ排泄される水銀量はアマルガム充填歯数に比例して増加する傾向がみられたが,尿中水銀量の生物学的半減期は今回の実験では不明であり,今後の検討課題である.4)各臓器の組織学的検索を母親と胎児の脳,肝臓,および腎臓についてヘマトキシリン・エオジン染色により行なった結果,実験群の各臓器は対照群と比較して特に変化は認められなかった.
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