研究概要 |
補綴物の生物学的影響を考える際に,唾液因子を無視できない.しかし,これまでにin vitroにおいて細胞毒性試験を行う際に,この点はほとんど配慮されてこなかった.すなわち,ヒト混合唾液あるいは人工唾液の成分が,細胞培養液としては必ずしも適切ではないことによってきたものと思われる.そこで,細胞培養が可能な唾液モデルの細胞培養液を開発して細胞毒性試験を行い,口腔内における補綴材料の生物学的性質に関する基礎データを得ることを研究の目的とした. 第1段階として,唾液因子を導入した細胞培養液の試作を試みた.すなわち,Greenwood氏人工唾液,サリベートおよびヒト混合唾液を培養液にそれぞれ添加した結果,添加濃度の上昇につれて細胞回復度が低下し,人工唾液45%添加群で約7割以上の細胞回復度を示した.また,ヒト混合唾液添加群は僅かに細胞回復度の低下が認められた. 第2段階として,第1段階の結果を基に,45%添加条件で補綴材料の細胞回復度試験を行った.HEp-2細胞とGin-1細胞の結果から,組織培養液のみの場合と比較して,Ag-In-Zn合金,Ni-Cr合金,Ni-Cu-Ga合金でやや細胞回復の低下が認められた.レジン材料については唾液因子添加による差が認められなかった.一方,組織モデルによる細胞回復度もHEp-2細胞やGin-1細胞と類似の結果を示したが,Co-Cr合金は中等度の細胞回復を示した.また,常温重合レジンはほとんど細胞回復を示さなかった.ヒト混合唾液添加群ではNi-Cr合金とCuがほとんど細胞回復を示さなかった.一方,組織モデルでは唾液因子添加による影響が少なく,常温重合レジンでは粉末状の試料はバルク状の試料と異なってほとんど細胞回復を示さなかった. 今後,口腔内環境をより反映させた細胞毒性試験用培養液を製作すべく,(1)口腔内での腐食機構解明に必要な硫化因子をさらに導入する,(2)唾液のpH緩衝能への類似化,(3)唾液粘度,比重等の物理的性質への近似化などに向けた改善が求められる.
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