研究概要 |
口腔扁平上皮癌の原発巣の状態から頚部リンパ節への転移の可能性を予知出来ないかの仮説のもとに病理組織学的手法と分子生物学的手法を用いて検討を加えた.病理組織学的立場からヒト口腔扁平上皮癌56症例に対して腫瘍浸潤様式と転移の関係を検索したところ浸潤傾向の強い4型で52%に,浸潤傾向の弱い1-3型で24%の頚部リンパ節転移を認め,X^2検定では0.05の危険率で有意差を認めた.また,基底膜の存在様式と頚部リンパ節転移との関係を検索したところ,基底膜の存在が明瞭な1・2群では17%,基底膜の断裂・消失を認める3・4群では50%の頚部リンパ節転移を認め,X^2検定では0.05の危険率で有意差を認めた. 一方,ヒト臨床材料の口腔扁平上皮癌からDNAを抽出し,MASA primer set 1(3種類),set2(3種類)を使用して,分子生物学的に検討したところ,病理組織学的に頚部リンパ節転移が確認された症例の原発巣でcodon 12の欠落を認め,頚部リンパ節転移と何らかの関わりを認める所見を得た.しかしながら,長期間保存したパラフィン切片からDNAを抽出した場合,DNAにNickの入る可能性があり,古い組織片ではDNAの抽出の際に問題が生じることがあることも経験した.その欠落の頻度と頚部リンパ節転移(初診時転移症例あるいは,後発転移症例を含む)の相関を出すには至ってはいないが,頚部リンパ節への転移の予後を推測する因子として有用であることが示唆された.さらに,MASA法による検索の症例数を増やし,本年度の日本口腔外科学会総会に報告する予定である.
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