研究概要 |
口腔領域は周囲を骨に囲まれているという解剖学的特徴を持つことより口腔領域悪性腫瘍の骨への浸潤あるいは骨破壊はしばしばみとめられ,治療法の選択,手術範囲の決定,また予後を左右する大きな負の要因となっている.従って癌の顎骨浸潤の予防あるいは浸潤した癌細胞の顎骨での増殖を制御することは臨床上極めて重要な課題である.本研究では癌の骨内への浸潤増殖は破骨細胞性骨吸収に引き続いて起こることに着目し,強力な骨吸収害剤である第三世代のビスフォスフォネートの投与による破骨細胞性骨吸収の抑制が,二次的に起こりうる癌の顎骨浸潤の予防あるいは浸潤した癌細胞の顎骨での増殖を制御できるかどうかを癌の顎骨浸潤モデルを用いて検討した.VX2癌細胞をウサギの下顎歯肉の骨膜下に移植すると,腫瘍は骨膜下に拡散性に増殖した後,外向性ではなく内向性に顎骨を破壊し増殖した.対照群では骨膜下に増殖した範囲にほぼ一致して,広範囲に顎骨皮質骨が破壊され腫瘍が浸潤したが,ビスフォスフォネート投与群(3mg,IM,週一回)では,スポット状に顎骨が破壊されたのち顎骨内部へ増殖したものが多く,顎骨浸潤初期過程において抑制が働いたものと考えられる.一方,骨髄腔内に達した腫瘍は髄腔内部で増殖しており,対照群との間に明確な差は認めなかった.しかし,骨髄腔内の制御に関しては,ヌードマウス骨転移モデルを用いた検討から,骨髄腔内への癌細胞着床時からの連日投与が四肢骨骨髄腔内での腫瘍の増殖を強力に抑制するのみならず骨梁を増加させており,顎骨骨髄内における腫瘍増殖も投与量,投与スケジュールあるいは動注法など投与方法の改善により制御できると考えられる.従って,本薬剤は口腔癌の顎骨浸潤に対する補助療法としての有効性が示唆された.
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