研究概要 |
兎のオトガイ神経電気刺激によって血圧は初期の血圧低下とその後に続く血圧上昇との2相性の反応を示す. 平成7年度はまずこの血圧低下反応について検討した.血圧低下反応は電気刺激の刺激頻度が低いほど明確に出現し,これはTrigeminal Depressor Response(TDR)として知られている.TDRが大脳皮質組織血流量と酸素分圧に及ぼす影響を観察し,併せてTDRによる循環変動に対する笑気の影響について検討した結果,TDRによる大脳皮質組織血流量と酸素分圧の減少は,血圧低下の程度が同程度であれば,迷走神経刺激時の変化とまったく同様であった.また笑気はTDRによる大脳皮質組織血流量減少を抑制した.次に血圧低下および血圧上昇反応に対する笑気とイソフルランの効果について検討した.イソフルランは血圧低下反応も血圧上昇反応も濃度依存性に抑制するが,1.5MACでも,あるいは更に笑気を加えてもこれらの反応は消失しないことが多く,吸入麻酔のみで口腔領域の侵害刺激に対する循環反応を完全に抑制することは不可能であった. 平成8年度はこの循環反応に対するフェンタニール,クロニジン,ネオスチグミン,L-フェニルイソプロピルアデノシン(L-PIA)の効果を検討した.フェンタニールは血圧低下反応を抑制し,クロニジン,ネオスチグミン,L-PIAはおもに血圧上昇反応を抑制した.クロニジン,L-PIAは量依存性に血圧を低下させた. 平成9年度はこの循環反応に対するペンタゾシン,プロポフォール,ケタミンの効果を検討した.ペンタゾシンは血圧上昇反応を抑制する傾向を示し,フェンタニールとは異なった作用を示した.プロポフォールとケタミンもおもに血圧上昇反応を抑制した.すなわち,作用機序の異なるこれらの薬剤を適切に組合せることが口腔外科手術のためのより安全かつ効果的な麻酔につながるのではないかと考えられる.
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