局所脳虚血病変への脳静脈還流障害の影響を知る目的で、脳組織酸素分圧(Pto_2)、局所脳血流量(γ-CBF)、血液脳関門(BBB)の破綻、脳浮腫の面から急性期の病態を検討し、不可逆性脳組織障害の成り立ちを考察した。 実験は高血圧自然発症ラットを用いた。麻酔導入後に調節呼吸を行い、開頭して右側中大脳動脈(MCA)を明示した。その灌流領域の大脳皮質に、γ-CBF、Pto_2、脳表温の各プローベと脳波測定用の電極を置き、直腸温、平均動脈圧と共に連続記録した。実験群は、A群(完全全脳虚血):心停止、B群(静脈還流障害のみ):両側外頸静脈(JV)血流遮断、C群(不完全局所脳虚血):右側総頸動脈(CA)およびMCAの同時血流遮断(60分間)と再灌流(60分間)、D群(静脈還流障害+不完全局所脳虚血):CA、MCA血流遮断に両側JV血流遮断を負荷(60分間)した後、動脈のみ再灌流(60分間)、の4群に分類した。各群における上記測定項目の変化と、各個体でのエバンスブルー(EB)の血管外漏出によるBBBの破綻所見、およびトリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)染色による脳梗塞巣発現との関連性を検討した。また、虚血性脳浮腫の程度を測定するため、specificgravimetric techniqueによる脳組織の比重測定、およびdry weight methodによる水分含量を測定した。 その結果、脳静脈還流障害はγ-CBF、Pto_2に大きな影響を及ぼさなかった。しかし、急性期の局所脳虚血が合併すると、BBBの破綻および虚血性脳浮腫の増大がみられ、脳虚血病変を悪化させることが明らかとなった。以上より、脳静脈還流障害に急性期の局所脳虚血が伴う状況下では、虚血巣と周囲組織間の静水圧差拡大が病因と考えられる脳虚血の病態進展を示唆する所見を得て、虚血性脳血管障害の急性期における静脈圧の重要性を明らかにした。
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