研究概要 |
齲蝕の主な原因菌であるミュータンスレンサ球菌(MS)の伝播について,Chromosomal DNA Fingerprinting methodを用いて,20家族76名の家族内に分布するMSの相同性を判定し,伝播の由来を明らかにし,さらに子供へと伝播した菌を伝播菌株として,同菌の性状を分析し比較を行った。 1.MSの分布および伝播 (1)家族単位で保有する菌株の種類は2〜8種類,また個人で保有する菌株は,1〜4種類で2種類を有するものが最も多く59.2%であった。 (2)全小児の菌株は,母親から由来したと考えられるものが47.3%で,Liら^<31>の報告にあるように母親から伝播する可能性が高いことが示されたが,その一方で父親から伝播したと考えられるものが33.8%,その他の由来が21.6%あり,小児のMSの由来の多様性が示された。 2.血清型分類の比較 全菌株を血清型で分類すると,c型株を有するヒトの割合が最も多くその他,d型株は12.7%,e型株は12.0%,g型株は8.0%であった。また各菌株を伝播,非伝播で分類するとc型に比べてそれ以外の型の菌株は高い割合で伝播菌株であった。 3.伝播菌株の性状 (1)全グルカン合成量に対する不溶性グルカン合成量の割合は,伝播菌株で85.0±4.46%,非伝播菌株で55.4±20.4%であり,伝播菌株が高い値を示した。 (2)菌体疎水性を示す接触角を調べた結果,伝播菌株が高い疎水性を示した。 (3)血清型でg型の菌株は他の菌株に対して強いバクテリオシン活性を示した。 (4)酸産生能および増殖能は,伝播,非伝播間で差は認められなかった。 これらの結果から,小児口腔内に分布するミュータンスレンサ球菌は,両親(母>父)を由来とするものが圧倒的に多く,両親の同菌の唾液中レベルを下げることによって,子供への早期定着をできるだけ防ぐことが,齲蝕予防の一つの考えとして示唆された。
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