研究概要 |
本研究は顎変形症患者がもつ自己顔イメージを明らかにし、自己顔描画テストの確立を試みたものである。自己顔描画の解釈には、下記の指標が重要であった。1.部分の省略(頭部、髪毛、眼),2.部分に固執した強調(下顎前突、顔面非対称),3.仮面化して輪郭を重視,4.部分継起(描画順序),5.一貫性,6.女性の過度な強調,7.エロチックな表現,8.未成熟なパーソナリティー,9.描画の空間的位置,10.視線の向き,11.透視,12.描画時間,13.批判性(描画拒否),14.態度。 患者にとって描画の特別な意味は、二つの方法で示されていた。一つは積極的な場合であり、1.描画中の情緒表現、 2.普通と異なる描画順序、3.頻繁に描き直す、4.特定の部位に執着、が観察された。消極的な場合では、1.不完全な表現、2.本質的な部分の省略、3.描画に対する説明のあいまいさ、4.描画拒否、であった。顎変形症患者は、自己顔イメージに対して歪みをもっているものと考えられた。 眼球運動の測定結果から、顎変形症患者は自己の自然な表情に対して口唇や下顎へ嫌悪意識をもっているものと考えられた。微笑顔に対しては口唇やオトガイ部を避け自己防衛的に目を中心とした自己の魅力を追及する態度をとっていた。下顔面部の変形が自己顔の視覚探査行動に強い影響を与えているものと思われた。役割構成レパートリーテストによって対人認知の面から手術前後の自己像の変遷を観察すると、顎変形症患者は自己像が変わっていないと考えていた。眼球運動測定結果および役割構成レパートリーテストの所見は、自己顔描画テストで得た解釈と符合するものであった。以上のことから、自己顔描画テストは患者の内面世界を投影する技法として、妥当性をもつものと考えられた。
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