研究概要 |
歯牙切削時に飛散する血液,唾液を伴った粉塵粒子による診療室内空気汚染の状態を検討するために、実験的に歯垢培養液と歯牙切削粉塵を混合して環境気中に噴霧し、口腔レンサ球菌が口腔内由来の飛沫感染経路の指標となる可能性について研究を進めてきた。その結果歯科医師,歯科衛生士への飛沫状態と室内環境汚染の程度を明らかにした。さらに一連の研究の中で,歯科診療室内における空中浮遊菌の存在状態を知るために,空中浮遊粉塵を粒子径別に捕集し,歯科診療室の空中浮遊菌の種類とその割合について検討した。空中浮遊菌を血液寒天培地に捕集し,培養後に菌種を同定した結果,菌種グラム陽性球菌類は,全体の33%,グラム陽性桿菌類は37%,真菌は30%であった。これに対して,口腔レンサ球菌を選択的に検出できるMitis-Salivarius培地に空中菌を捕集した結果,グラム陽性球菌類は,全体の35%,グラム陽性桿菌類は23%,真菌は38%という結果を得た。また,口腔内由来と考えられるグラム陽性球菌類の中のα溶血レンサ球菌は,血液寒天培地では,全体の4.5%だったのに対し,MS培地では,全体の31%で約7培を検出した。さらにα溶血レンサ球菌を詳細に同定した結果,口腔内常在菌種が多数検出され,口腔内由来であることが明らかとなった。また,一般大気中において,α溶血レンサ球菌がわずかに検出されたという報告が過去にあったことから,コントロール群として,歯科診療室以外の空中菌を同じように検討した。その結果,診療室以外の場所では,α溶血レンサ球菌の検出はなかった。以上から,診療に伴う飛沫感染や診療室内環境の汚染のモニターとして,このような材料を利用可能にした意義は大きく,MS培地は血液寒天培地に比べて,取扱が容易で,歯科領域においては,一般的な培地であることから,歯科医師自身で,診療に伴う飛沫や汚染の程度の評価が可能である。
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