研究概要 |
シクロペンタジエンとベンゾキノンより大量かつ容易に合成できるメソ型対称性ジオール,およびその誘導体を基質とするオレフィンの不斉異性化反応を検討した.その結果,基質としてジオールを,触媒としてキラルBINAPを配位子とするカチオン性ロジウム錯体を用いた場合は定量的に異性化したケトンが得られたが,その光学収率は43%e.e.であった.しかし,ビスシリルエーテルを基質とした場合には不斉異性化反応がほぼ定量的な化学収率および光学収率で進行することを明らかにすることが出来た.その際,(1)シリルエーテルの大きさは光学収率には影響を与えないこと,(2)他のアルキルエーテルでは高い光学純度を持ったケトンは得られないこと,(3)ジエステルでは全く反応が進行しないこと,(4)オレフィンの異性化の方向はジオールとビスシリルエーテルでは逆である,という興味ある結果も得ることが出来た.さらに,異性化したケトンから各種天然物全合成の出発原料になっている光学的に純粋な4-hydroxy-2-cyclehexenoneの簡便な合成も達成できた. 基質の構造をより単純にした7員環のメソ型エンジオールビスシリルエーテルに対しても本反応を適用したところ,若干の光学収率の低下が観察されたが,好収率でオレフィンが異性化したケトンを得ることに成功した.さらに,ここで得られたケトンから3工程でトロパンアルカロイドであるphysopervineの最初の不斉合成を行うことが出来た.
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