研究概要 |
研究者はこれまでに、不斉遷移金属錯体を触媒とする不斉合成反応において、優れたジホスフィン配位子を開発し、主にロジウム錯体触媒を用い、高効率かつ高選択的な不斉水素化を実現してきた。一方、ジホスフィン配位子に比し、異なるヘテロ官能基をもつ配位子の開発はあまり行われておらず、その遷移金属触媒に及ぼす電子的、立体的な効果はあまり明らかにされていなかったので、リン原子とイオウ原子およびイオウ原子と窒素原子をもつ新規な配位子の合成を行った。まずヒドロキシプロリンを出発原料とし、1級と2級のアルコールの反応性の差を利用し、BPPM類縁のP,S官能基をそれぞれ1級と2級炭素および2級と1級炭素にもつ2種類の新規配位子と酒石酸を出発原料としC_2対称性のDIOP類縁の新規P,S配位子の合成を行った。また不斉合成法または誘導法によるS,N官能基をもつ数種類の不斉配位子の合成も行った。それらを用いるPd,Ni錯体による不斉アリル化、不斉クロスカップリング反応により、ヘテロ原子の触媒活性、選択性に及ぼす効果を検討中である。一方、これまでの不斉水素化で高い選択性が実現されていない単座配位の基質として、環状のイミンがあるが、研究者は、反応中間体の予測から、これまでのジホスフィン配位子の金属錯体に、ヨウ素やNヘテロ官能基をもつ化合物を助触媒として添加する方法によって空いている配位座に配位させ、特にBCPMやBINAPのIr錯体を用いイミドを触媒量添加する方法によって、高い選択性と触媒活性が実現できることを明らかにした。配位できるヘテロ原子化合物を添加することにより、6員環状イミンの触媒的不斉水素化で高い選択性をあげる一般的方法を初めて見いだすことができた。現在、この方法を利用し、各種天然光学活性カルカロイド類の合成に応用しつつある。
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