研究概要 |
先に我々はヒト皮膚線維芽細胞がHGFを産生・分泌することを見出したが、このことはHGFがそのケラチノサイトに対する増殖促進能を介して表皮の形成や再生に関与する可能性を示すものである。我々は本細胞からのHGF産生誘導物質を探索し、Cキナーゼ活性化ホルボールエステル、上皮増殖因子(EGF)及びサイクリックAMP上昇薬を既に明らかにしている。本研究でHGF産生促進因子をさらに探索した結果、アスコルビン酸並びにその安定型誘導体であるアスコルビン酸2-グルコシド(AA-2G)、アスコルビン酸2ーリン酸(AA-2P)がHGF産生を促進することを見出した。また、これらの化合物を上記HGF誘導剤と併用すると、いずれの場合もHGF産生が相乗的に増加した。このうちEGFの作用が最も強く増強された。さらに、真皮線維芽細胞における構成的並びに誘導性HGF遺伝子発現もアスコルビン酸やその安定型誘導体によって増加した。 創傷治癒には血小板由来増殖因子(PDGF)が大きな役割を果たすと考えられている。培養細胞に対して主として間葉系細胞を増殖させる働きをもつPDGFを創傷局部に投与すると、線維芽細胞が多い真皮のみならず、PDGFが直接作用しないとされる表皮の治癒も著しく促進される。このようなPDGFの創傷修復作用に表皮ケラチノサイトの増殖促進効果を有するHGFの誘導が関与するか否かについて、培養ヒト皮膚線維芽細胞を用いて調べた。本細胞からのHGF産生はPDGFにより強く促進され、10ng/mlで対照群の約6倍の最大値に達した。この作用はEGFよりは弱いものの、酸性及び塩基性線維芽細胞増殖因子(aFGF,bFGF)の作用よりは強かった。HGF産生の増加はPDGF添加後24時間で認められたが、72時間でより顕著になった。一方、同線維芽細胞のHGF遺伝子発現もPDGF処理後9時間で上昇し、以後60時間まで徐々に増加した。また、PDGFによるHGF産生誘導は、アスコルビン酸により相乗的に増強され、既に我々が明らかにしたHGF産生阻害因子(TGF-βやデキサメタゾン)により強く阻害された。これらの知見はPDGFにより誘導されたHGFがPDGFの生体における創傷治癒促進作用に寄与する可能性を示すものである。また。アスコルビン酸がPDGF誘導性のHGF産生を強く促進することは、上皮再生過程が本ビタミンより促進されることを示唆している。
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