研究概要 |
報告者は血管内皮細胞における構成型NO合成酵素の活性化に必要な細胞外Ca流入のメカニズムにチロシン・キナーゼが関与すること(Jpn.J.Pharmacol.67:181-183,1995),並びに同キナーゼが血管平滑筋細胞においてエンドトキシンによる誘導型NO合成酵素の発現に関与するチロシン・キナーゼとは相異なるイソザイムであることを世界で初めて見いだすことができた(投稿中)。血管系における2つのNO産生系がともにチロシン・キナーゼを情報伝達因子として利用していることは,学問的興味のみならず創薬のターゲットを考える上でも極めて興味深く,またこの領域は報告者が最初に見いだした現象でもあるので他の研究者よりも一歩進んだ位置にあると考える。したがって現在は内皮におけるCa流入機序と誘導型NO合成酵素の発現機序を主としてチロシン・キナーゼを含むキナーゼ系の観点から平行して検討を進めている。 まず比較的大量にかつ安価に供給が可能な培養平滑筋細胞を用い,Western blot法を用いてエンドトキシン,IL-1によりチロシンりん酸化を受ける2本の蛋白バンドを認めた。そのうち一つはNO合成酵素誘導を抑制しないメバロチン処理により消失したので,直接誘導には関与してないものと考えた。他の一つはMAPキナーゼの一つであるp38と考えられるので現在免疫沈降法を用いてその同定を急いでいる。なお,阻害剤を使用した実験により,NO合成酵素誘導にはチロシンキナーゼとnovel typeのprotein kinase C両者の活性化が共に必要であることを初めて示唆した(投稿準備中)。一方,内皮細胞を用いた実験においては細胞内Ca濃度画像解析システムを用いて,細胞内へのCa流入にチロシンキナーゼが必要であることを確認するとともに,phospholipase A_2も必須な役割を担っていることを示唆した。内皮細胞におけるチロシンりん酸化たんぱく質の同定については検出限界の問題もあり再現性のあるデータは得られていないので,現在検出方法の条件設定を急いでいる。
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