研究概要 |
平成8年度のアレルギー担当細胞である好塩基球細胞の高親和性IgE受容体遺伝子変換体の確立ならびに変換体を用いる情報伝達に関する研究から、下記の知見が得られた。 (1)イムノグロブリンE(IgE)受容体の動態の解析:平成7年度に確立したラットIgE受容体のβ,γ鎖のITAM(Immuno-receptor tyrosine activation motif)を含む細胞内領域を欠失した遺伝子を導入したマウスマスト(P815)細胞を用いて、IgE受容体の架橋形成後のクラスター形成を、長波長蛍光色素であるシアン系蛍光色素(CY5.13)を結合したIgE抗体を用いて観察した。その結果、β,γ鎖のITAM領域の欠失により、受容体の架橋形成からエンドサイトーシスに至る過程が抑制されることが判明した。このことからβ,γ鎖のITAM領域の欠失が、受容体の動きも抑制することが判明した。(2)初期シグナルの解析:無欠のIgE受容体を導入した肥満細胞では、抗原刺激に伴いカルシウムシグナルを伝達し、IgE受容体、Syk(72k)kinase,Lyn(56k)kinase,42k蛋白質のチロシンリン酸化反応の上昇が観察されたが、IgE受容体β,γ鎖の細胞内(ITAM)領域を改変した遺伝子を導入した細胞では、抗原刺激に伴うこれらの反応が抑制された。チロシン脱リン酸化酵素阻害剤である過酸化バナジウム酸による刺激においてもβ,γ鎖のITAM領域の欠失により、カルシウムシグナルの抑制が観察された。(3)脱顆粒過程の解析:上記変換体を用いた脱顆粒反応について顆粒膜抗原(CD63)の細胞膜上への表現を指標に単一細胞レベルでの解析を行ったところ、β,γ鎖の細胞内領域の欠失により、CD63抗原の細胞膜上への表現が低減化する、すなわち、脱顆粒反応も抑制されているという結果が得られた。 これらのことより、IgE受容体のβ,γ鎖の細胞内領域のリン酸化反応が、カルシウムシグナルの応答及びIgE受容体のエンドサイトーシスに重要な役割を持っていることが示された。
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