研究概要 |
本研究では、肝の薬物代謝能に及ぼす性周期及び妊娠の影響を検討した。当施設内の臨床研究審査委員会の承認を得た上で、試験を開始した。肝の薬物代謝能はカフェインテストを用いた。試験は、規則正しい性周期を有する健常成人女性12名と妊婦13名の被験者について行った。性周期の影響は、月経周期内の4期(I期:月経開始後2〜4日,II期:月経開始後13〜15日,III期:次月経開始予定日の7〜5日前、IV期:次月経開始予定日の4〜1日前)の時点で検討した。妊娠の影響は、妊娠前期(3〜4ヶ月),中期(6〜7ヶ月),後期(9〜10ヶ月),出産後(約1ヶ月)の時点で検討した。肝の薬物代謝能は、カフェイン摂取後(健常成人:150mgカフェイン,妊婦:缶コーヒー・紅茶)の尿中カフェイン代謝物比により、チトクロームP4501A2 (CYP1A2),キサンチンオキシダーゼ (XO),N-アセチルトランスフェラーゼ (NAT)について評価した。尿中カフェイン代謝物は高速液体クロマトグラフ法により、AFMU,1-メチルキサンチン,1-メチル尿酸,17-ジメチル尿酸を測定した。 1:薬物代謝能に及ぼす性周期の影響 CYP1A2代謝活性の指標としたカフェイン代謝物比は、月経周期の4期で有意差を認め(p<0.05)、I期及びII期に比較し、IV期で上昇していた。XO及びNATはいずれも4期を通じて有意差を認めなかった。 2:妊娠時における薬物代謝能の変化 CYP1A2,XO,NAT の代謝活性の指標であるカフェイン代謝物比は、試験を行った妊娠4期の間でいずれも有意差を認めた(p<0.05)。CYP1A2及びNATについては、IV期に比較してI,II,III期で有意に低下しており、妊娠中は CYP1A2及びNAT活性が低下していることが示唆された。XOについては、III・VI期に比してI期の代謝物比は低下しており、妊娠初期にXO活性が低下していると考えられた。 これまで、性周期内の薬物代謝能の変化や、妊娠時の経時的な薬物代謝能の変化についての報告はない。本研究により、性周期内において CYP1A2による代謝が変化し、妊娠時には CYP1A2,XO,NATによる代謝が低下していることが明らかとなった。
|