研究概要 |
流動状態が内皮細胞の機能や抗血栓性の維持に重要な役割を演じていることが近年注目されている。我々は、コーンプレート型回転粘度計を応用し、培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞にずり応力を負荷し、内皮細胞から放出される組織型プラスミノゲンアクチベータ-(t-PA)およびプラスミノゲンアクチベータ-インヒビター(PAI-1)の動態を蛋白レベル・mRNAレベルで検討した。ずり応力を0, 6, 12, 18, 24dynes/cm^2を負荷すると、EIA法で測定したt-PA・t-PA/PAI-1複合体抗原量の培養上清中への放出はずり応力依存性に増加し、動脈レベルで顕著であった。一方、PAI-1およびactive PAI-1は減少が認められた。炎症性メデイエーターの中心的役割を担うサイトカインの影響を検討する目的でIL-1とTNFを負荷すると、t-PA・t-PA/PAI-1複合体抗原量の放出は影響を受けなかったが、PAI-1およびactive PAI-1の放出は著明に増加し、サイトカインが内皮細胞を血栓性に傾かせることが確認された。興味あることに、サイトカインでperturbationを受けた内皮細胞にずり応力を負荷すると、静止時には影響しなかったt-PA・t-PA/PAI-1複合体抗原量の放出を顕著に増加させた。一方、サイトカインで増大したPAI-1およびactive PAI-1の放出は抑制された。内皮細胞よりmRNAを抽出し、ドットブロットを施行しt-PAおよびPAI-1のプローベで同様の検討を行ったところ、かかる変化はmRNAレベルで制御されていることが判明した。以上の結果より、流動状態は内皮細胞の線溶系制御において、絶えず抗血栓性を保持するように作動しており、炎症性サイトカイン刺激時にもその抗血栓性を維持するように変化することが判明した。かかる流動状態とサイトカインの相乗作用が明らかになったことは、流動状態の血栓制御に果たす役割の解明に大きく寄与するものと思われ、更なる細胞内伝達機構や遺伝子レベルの制御機構の解明が待たれる。
|