研究概要 |
糖鎖性の腫瘍マーカーのうち、1型基幹糖鎖グループの代表であるシアリルLe^aと、2型基幹糖鎖の代表であるシアリルSSEA-1は、血管内皮細胞の細胞接着蛋白質のリガンドであり、これらの糖鎖抗原は、がんの血行性転移を媒介し促進すると考えられる。このことは、これらの腫瘍マーカーが陽性の患者は、単に腫瘍が存在するというばかりでなく、転移をおこしやすく予後不良であることを示す。 E-セレクチンに対する単クローン抗体を用いて、酵素免疫測定による血中E-セレクチンのサンドイッチ測定系を用い、大腸癌をはじめとして広範ながん患者血清中のE-セレクチンを測定した。その結果、健常人の血中にも有意のE-セレクチン(平均34.3ng/ml,n=100)が検出された。このことは、健常人でも、体内の血管の一定の部分は、ほぼ恒常的にE-セレクチンを発現していることを示している。大腸癌患者では、転移を有する患者はE-セレクチンが高いことが多く(77.4ng/ml,n=12)、また、逆に転移が陰性の患者は血清E-セレクチンが低い傾向が観察され(47.1ng/ml,n=34)、両群間に有意差(P<0.05)が見いだされた。 さらに、上記の測定と同時にシアリルLe^a抗原濃度を並行測定し、両者陽性のものを血行性転移危険群とし、患者の予後と血行性転移の頻度を調査して、各々が陰性の患者群と予後を比較したところ、癌細胞のリガンド糖鎖と血清E-セレクチン発現の両因子がともに陽性の患者では88%と高率に転移を有していた。癌細胞のリガンド糖鎖のみ陽性の患者および血中E-セレクチン高値のみの患者では39%に転移がみられた。これに対して両方とも陰性の患者では25%に転移を見るにすぎなかった。セレクチンに関連した危険因子の増加とともに血行性転移が増加する傾向にあった。
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