研究概要 |
精神科の看護婦・士にとって,精神分裂病患者の症状を悪化させないためには,前駆的症状をできるだけ早く捉えることが大切である。従来,前駆的症状は,現象的で定量的に測定できない日常生活のエピソードとして研究されてきた。私はある程度,前駆的症状が測定可能で客観的なもにになる必要があると考える。そこで測定可能な前駆的症状の一つとして患者の歩数の変化に着目した。もし歩数の変化が精神症状の変化と関係するならば,精神科の看護婦・士は精神症状の変化をある程度予測できるであろう。 研究対象は,同意の得られた入院中の精神分裂病患者6人である。患者の歩数の測定は看護婦・士が朝の10時から午後の4時まで行った。月曜日から金曜日まで行った。1週間の歩数を合計し,1日の平均歩数を求めた。精神症状は主治医がパンスを使って毎週金曜日に測定した。主にパンスのなかで陽性尺度合計得点,陰性尺度合計得点,総合精神病理尺度合計得点を歩数との比較に用いた。調査期間は患者によって異なり,25週間から39週間である。 6名中4名において,陽性尺度得点,陰性尺度得点,総合精神病理尺度合計得点のすべてあるいは一部が,現在のみならず,4週間前の歩数に対してさえも有意な正の相関を示した。残りの2名のうち1名は5つの精神症状が数週間前の歩数と有意な相関を示した。これらの結果から,入院中のかなりの数の分裂病の患者は,歩数の変動が精神症状の変動に先立っていることが推測された。
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