研究概要 |
1.研究目的:本研究の目的は,不妊治療後に妊娠,出産した女性の母子関係や夫婦の関係,セクシュアリティに関して,内在する問題を明らかにすることである。 2.研究対象:研究への自発的な協力者を対象とし,不妊治療経験の後に妊娠,出産した新潟県内の女性22名。調査時年齢は25〜61才,治療年数は半年〜8年である。治療内容は,排卵誘発13,体外受精・胚移植3,人工受精5,ホルモン治療3,その他3で,治療中断時の自然妊娠3,次子の自然妊娠3,特別養子縁組1を含んでいる。多胎妊娠は双胎2,品胎1,四胎1の4例であった. 3.研究方法:自宅を訪問し,直接面接・自由会話方式による聞き取りを実施.面接は1〜2回,約1.5〜5時間である.質的研究によって記録と録音内容を逐語記録化した情報を分析・考察した. 4.結果:対象の多くは良好な母子関係にあった.しかし,多胎妊娠の場合は妊娠・出産を通じて不安が強く,産後は育児上の悩みや心理的葛藤を抱えていた.母子関係の問題や夫婦関係の軋轢は,不妊治療後・断念後の予期せぬ自然妊娠の事例や,不妊による自己否定の強い事例の場合に起こりやすい.前者では,生殖能力の認知の修正と人生計画の変更を余儀なくされ,妊娠の受けいれを困難にしていた.特に夫と妻とで妊娠の受容が異なる場合は夫婦間の緊張を惹起している.また,不妊による自己否定の強い女性では妊娠が自己修復の手段・目標となり,出産・育児の理想と現実とのギャップも強く感じていた.治療時の性行動はほとんどが妊娠目的のみとなり,ストレスをもたらすだけでなく,産後は夫婦の性意識にずれが生じ,新たな軋みを生じていた.今回の調査から,治療後の妊娠は必ずしも不妊時の問題を解決するものではなく,新たな葛藤を生じる場合も少なくないことが明らかになった.不妊治療によって子どもを得た後は次子妊娠への期待が強く,不妊治療開始の悩みの内容は初回とは異なっていた.また不妊治療の結果として何らかの健康不安をもち,将来の身体への影響を危惧しているものがほとんどであった.
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