本年度の研究において目的としたのは、近代科学成立期の科学者たち、とくにガリレオ・ガリレイと敵対していると考えられてきたためにこれまで看過されてきたイエズス会士たちの自然観を焦点を当てることで、当時の自然研究の実態を明らかにすることであった。 16世紀から17世紀初頭にかけて活躍したイエズス会士たちの自然に関する著作、ガリレオおよび彼の周辺にいた科学者たちの著作を検討した結果、明らかになったのは以下の諸点である。 イエズス会士たちもまた新たに発見された自然現象に無関心だったわけではなく、アリストテレスの自然哲学を修正し、場合によっては彼の教えに背くような理論を構築することでそのような自然現象を説明しようと努力していた。たとえば彼らもコペルニクスの地動説を全面的に否定していたのではなく、地動説という核心部分はともかく、コペルニクスのいくつかの工夫を採用することで、惑星の運行を説明しようとしていた。1618年の彗星については、イエズス会士たちの見解のほうが真実に近く、ガリレオのほうが間違っていた。 またガリレオのような科学者のほうも、今日では非科学的と考えられている占星術に少なからない関心を示しており、中世以来の伝統と完全に袂を分かっていたのではなかった。1604年の新星についての彼の見解はアリストテレスと共通する偏見を含んでいた。 したがって従来考えられていたように、近代初期の自然研究は今日の科学の成立に寄与した側と、アリストテレス哲学を墨守することでそれを妨げた側に分かれていたわけではない。また近代的な科学のほうも伝統的な自然観と無関係に成立したのではなかった。
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