研究概要 |
適度な運動を継続することによって高血圧症や心臓病は予防され,また運動療法はその症状を改善するとされている.しかしながら,運動中や持久的身体トレーニング後の心筋細胞の代謝動態および血管の収縮(弛緩)機構は不明な点が数多く残され,それらの事象を制御するには至っていない.本研究年度では高血圧自然発症ラットの血管収縮応答や脂肪細胞の脂肪分解反応に及ぼす持久的身体トレーニングの影響について明らかにした.その結果,以下のような事実が明らかになった. 高血圧自然発症ラットにおいて,血管内皮細胞存在下のノルエピネフリンによる胸部大動脈の収縮反応は持久的身体トレーニングによって有意に低下した.しかし,血管内皮細胞を除去すると持久的身体トレーニングによる収縮反応の低下は減少した.このことから,持久的身体トレーニングは高血圧自然発症ラットのノルエピネフリンによる胸部大動脈の収縮反応を低下させ,これは血管内皮細胞由来弛緩因子の放出が増加することによるものと推察された.また,高血圧自然発症ラットの副睾丸白色脂肪細胞における脂肪分解反応は著明に低下していた.しかし,最大反応はWistarラットに比べて低下するものの,持久的身体トレーニングによって副睾丸白色脂肪分解反応は増強した.いっぽう,心筋細胞の脂肪分解反応は実験間のバラツキが大きく一定の傾向が得られなかった. 持久的身体トレーニングが種々の血管作動性物質による血管収縮応答を低下させ,しかも脂肪細胞や心筋細胞の脂質代謝に影響を及ぼすことをこれまでに明らかにしてきた.今回,同様の結果が高血圧自然発症ラットにおいても観察され,上記の適応変化が持久的身体トレーニングによる高血圧改善機構の一因となっている可能性が示唆された。
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