研究概要 |
全身性の動的運動時の発揮パワー(P)と運動継続時間(t)の間には直角双曲線関係が認められることが知られている。この関係を規定する2つのパラメータである,漸近レベル:fatigue threshold(θ_F)と一定値パラメータ:W'の推定法・生理的意義・競技への応用性について研究する目的で,我々は3年間にわたって一連の実験計画を立案し実施してきた。初年度は,現在のθ_F・W'の推定法に存在する,測定が煩雑で著しく日数がかかるという欠点を解消する目的で,より簡便な推定法の開発を試みたが,いい成果は得られなかった。第2年度は,θ_FとW'の生理的意味付けに関する基礎的な実験的検討をいくつか行った。その結果として,θ_Fは,いわゆるATよりも明らかに高い運動強度に存在し,OBLAといったものよりもさらに直接的な,乳酸の動的平衡維持可能な(一定値に保ち得る)臨界の運動強度にあたること,またW'はPhosphocreatine(PCr)や解糖系に参画するglycogen storeといった作業筋内のエネルギー基質やそれに関連する要因を反映した,いわゆる無酸素性作業容量を示す指標であることを,実験的に実証した。第3年度は,P-t双曲線から得られるθF・W'の両パラメータの実際の走競技への適用可能性について基礎的ならびに実際的両面から検討を加えた。その結果,1,2分から十数分程度でall-outに至るような中距離走競技の場合、Pを走行速度(V)に置きかえて測定された,θ_Fに相当する臨界速度(V_F)とW'に相当するD'を用いることで、戦略や駆け引きによって時々刻々とペースが変化するような実際のレースにおける最終的な運動継続時間(レース成績)は,ほぼ推定可能であることが確認された。
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