研究概要 |
最大随意収縮(MVC)の10%・30%・50%程度の持続的な足関節背屈にともなうヒラメ筋運動細胞(MN)プールの興奮性の抑制量の個人差と、各被験者の安静時ヒラメ筋MNプール興奮性との関係を調べた。各被験者の安静時足関節MNプール興奮性の評価には、我々が先行研究で提唱したH波発達勾配/M波発達勾配(Hslp/Msl)を用いた。 Hslp/Mslpの妥当性については、従来から用いられている指標、例えばH波最大値/M波最大値(Hmax/Mmax)やH波閾値/M波閾値(Hth/Mth)に比べて、より適切なものであろうことが健常者と痙性麻酔患者の安静時MNプール興奮性の比較から示唆された(Neurosci Lett, 1996,203:127-130)。得られた結果は、10%あるいは30%MVC程度の比較的弱い拮抗筋収縮においてはヒラメ筋の安静時MNプール興奮性の低い被験者ほど随意的な拮抗筋収縮による相反抑制を大きく受けるというものであった。このような結果をもたらす機序の一端を探るために、被験筋であるヒラメ筋MNのIaシナプスへのシナプス前抑制を選択的に高めるとされているアキレス腱への振動刺激を用いて、その抑制量と安静時MNプール興奮性との関係を調べた。その結果、Iaシナプスに対するシナプス前抑制によるであろう抑制量の大きい被験者ほど安静時のヒラメ筋MNプール興奮性が低いことが観察された。これは、前述した拮抗筋収縮による相反抑制量と安静時のヒラメ筋MNプール興奮性との関係とほぼ一致しており、安静時におけるシナプス前抑制の程度の差異(おそらく安静時のヒラメ筋MNプール興奮性の高低を決める有力な要因)が、低強度の拮抗筋収縮によってもたらされる相反抑制量の個人差を生み出す要因になっている可能性が示唆された。50%MVCについては10%MVCや30%MVCでのパターンとは異なる結果が観察された。おそらく、足関節背屈の強度が強い場合には、シナプス前抑制以外の要因、つまりシナプス後入力の影響を強く受けるようになるものと推察された(Adv Exerc Sports Physiol, 1996, 2:65-52)。
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