研究概要 |
最近,重要な生体防御機構の一つである免疫機能とスポーツとの関連が注目を浴びている。本研究ではその種類の唾液が生物学的試料として適しているかといった点に注目して独自に開発した唾液採取装置を用いて唾液中のIgA濃度の変動を検討した。その結果,1)耳下腺唾液中のIgA濃度が混合唾液中の濃度を左右していること,2)混合唾液中のIgA濃度は分泌速度やタンパク濃度によって影響されることが判明した。したがって、IgA濃度の増減を示す場合、あらかじめ分泌速度かタンパク濃度あたりの濃度に計算し直して影響を及ぼすファクターを除外する必要があることがわかった。さらに,自転車エルゴメーターによる運動(70%VO_<2max>)負荷直後では唾液中のIgA濃度は低下し,運動終了30分後には回復していた。また、柔道女子選手の唾液IgA濃度を減量前,減量後(試合前2日),試合50日後の3回測定し変化を調べた。1)減量に伴う体脂肪は17%減少したが,除脂肪体重は2%減に止まっていた。2)生化学検査値では血清トリグリセリド,総タンパク濃度は減量前に比べて減量後は有意に減少した。一方,血清コルチゾールは試合前に上昇し,試合50日後には有意に低下していた。3)唾液のIgA濃度は減量後減少し,試合50日後では増加していた。4)減量前後でのコルチゾールと唾液IgA濃度の増減には負の相関があった。コルチゾールはリンパ旧増殖反応を抑制作用があるので減量等のストレスに生体が対抗しようとしてコルチゾールが多量に分泌され,その結果,IgA後退産生細胞の増殖が阻止され,唾液中のIgA濃度が低下したと考えられる。近年,免疫系は単独の機構ではなく,神経系や内分泌系との相互作用によって働くことが明らかにされつつある。今後、運動に影響を及ぼす内分泌系と免疫系のクロスリンクを解明するためIgA濃度の経時的変化を検討するつもりである。
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