研究概要 |
毛細血管内を非常に速い速度で通過する赤血球(RBC)には変形能がある。その形と赤血球膜脂質との間にはphosphatidylcholine (PC)を中心とした脂質組成の違いがある。運動ではこれらの現象がさらに要求される。持久性トレーニングではその頻度,持続時間,血液中の代謝的変化などが赤血球膜脂質の量的・質的変化を起し,末梢血管抵抗,血液粘性,さらには最大酸素摂取量へ関係が考えられる。本研究では対照者群(n=10,男性,18.5±3.5才)と長距離走者群(n=11,男性,18.8±0.8才)のRBC膜脂質を比較し,その違いを検討した。それぞれのRBCをghoast cellsとし蛋白をBradford法で定量し,Folchたちの方法で得た脂質を薄層クロマトグラフィーで分離後,それぞれの脂肪酸をガスクロマトグラフィーで分析・定量した。総脂肪量並びにcholesterol量には全く差異はなかった。phosphatidylethanolamine (PE)は有意に低下し(p<0.05),パルチミン酸(C16),ステアリン酸(C18),リノール酸(C18: 2),メバロン酸(C24: 1)に有意な上昇がおき(それぞれp<0.05),アラキドン酸(C20: 4)には有意な低下が認められた(p<0.05)。ラットの遊泳トレーニングで得たmethyltransferase IとIIの亢進によるPEの低下とPCの増加が期待されたが,長距離走者群のRBC膜PCには量的にも質的にも変化はなかった。しかしsphyngomyeline (SM)に有意な増加が生じ(p<0.05),脂肪酸組成でもC16, C24: 1の増加,C18, C20: 4の減少がそれぞれ有意に認められた(p<0.05)。SMの量的・質的変化はセラミドとPCを介したsphyngomyelinase活性の亢進を意味し,長距離走者のRBCではmethyltransferase I, IIと-sphyngomyelinase活性の亢進が考えられた。そしてこれらの活性亢進の背景には,持久性トレーニング初期にはmethyltransferase I, IIを介したPE-PC関係,後期にはsphyngomyelinaseを介したPC-SM関係が区分されると考えられる。
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