研究概要 |
本研究は,第四紀末期の顕著な環境変化に伴って形成・発達してきた沖積低地の,とくに,更新世/完新世境界付近,すなわち約1万年前頃における地形形成と堆積環境の変化を,この時期の環境変化との関係のもとに解明しようとするものである. 本研究では,まず,濃尾平野におけるボーリング資料を詳しく検討することにより,同平野における沖積層下部(濃尾層)の分布状態および層相の特徴把握を行い,同層とそれを覆う沖積層上部(南陽層)との関係,また,南陽層下部の層相変化について検討した.その結果,現在の濃尾平野臨海部一帯では,沖積層下部層をおおう堆積物が地点によって異なり,これらの堆積物の層相の違いは,当時の地形や堆積環境を反映していることが明らかになった.すなわち,砂層が厚く堆積している部分はデルタの前置層,カギ礁の発達する部分は潮間帯の干潟の部分,腐植質泥層の部分は背後の後背湿地の部分に相当し,カギ礁が厚く発達していることなどから,海進の過程でこれらの状態が比較的長い間継続し,堆積物の供給と海水準の上昇とがつりあってデルタの位置が余り変化せずに堆積していたと考えられる. 一方,津軽平野のデルタ地域では,下部砂層の層相に顕著な地域差はみられないものの下部砂層相当層の厚さは薄く,下部砂層直上に約9000年前の年代を示す泥炭層が発達していることから,更新世/完新世境界付近当時の地形および堆積環境は,全体として氾濫原の環境であったことが推定される.また,網走川低地においても津軽平野と同様の層相変化が認められ,更新世/完新世境界付近においては氾濫原的な地形・堆積環境であったことが推定された. これらのことから,濃尾平野のような堆積域の比較的広い沖積低地の場合には,更新世/完新世境界における堆積環境は海水準変動を反映して低地内においてもかなりの地域差が見られるのに対し,堆積場の狭い沖積低地の場合では,全体として扇状地性の環境から氾濫原的な環境へと移り変わる中で一時的に低湿な地形環境がはさまれるというような環境変化を示しており,海水準変動の影響はそれほど顕著ではなかったと考えられる.
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