研究概要 |
富士山、乗鞍岳、御岳山のほか、北海道苫小牧、長野県上田において関連する調査を行った.それぞれの山岳で森林限界付近の林分構造や年輪調査がその主体である. 1.富士山の森林限界高度は斜面によって1,400mから2,900mまで大きく変化する.本研究では最も高くにまで森林が達している西斜面・北西斜面に注目し,その主要構成樹種であるカラマツ(Larix Kaempferi)の生長量(樹高・胸高直径・根元直径・樹齢・年輪幅・埋土種子量など)を計測した.これらの標高に伴う変化がいくつかの環境要素と対比された.年輪幅の経年変化は標高によらず一定の傾向を示した.それぞれの標高ごとの樹齢から推定される森林限界の定着時期,すなわち上昇時期は,年輪幅経年変化を拠り所にすると,低生長期に対応していることが分かった. 2.ややマクロに見た植生と気候環境の関わりを吟味するため,中部山岳地域の温度特性について夏山の気温観測データと高層気象観測データを用いて解析を行った.その結果,山岳の夏季の気温は自由大気の気温を基準にすると山岳域中心部で高く,縁辺部で低くなることが分かった.このことの植生の生育環境に及ぼす影響評価は今後の課題である. 3.入手した年輪試料については年数と年輪幅を読み取った.よりピュアーな気候変動の抽出のため,年輪試料の採取は樹木の生育限界付近で行ったが,1で述べたような条件をどのように評価するか検討を要する.気候データとの関係についての解析は鋭意続行中である. 4.樹木年輪幅への様々な環境条件の関与を吟味するため、北海道苫小牧国有林の樹木を用い、火山爆発イベントを抽出する試みを行った。その結果、かなりの精度でイベントを抽出することができることがわかった。また、小氷期に相当する成長悪化期も認めることができた。 5.長野県上田地方唐臼山のアカマツの年輪試料を入手して解析を行った。その結果、アカマツは235年生であり、成長量の偏倚から2本のマツが並立していた時代が想定され、天保年間の小氷期と思われる成長悪化期が検出された。
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