研究概要 |
本研究の第一の目的は,完新世全体を通じての日本の砂州地形発達を明確にすることであった。そのために,異なった形態を示す7つの地域(駿河湾沿岸の浮き島ヶ原低地・清水低地・松崎低地・榛原低地,北海道常呂低地,相模川下流低地,浜名湖)を対象にして,砂州地形発達における共通性と地域性を考察した。その結果,日本において最高海面に達する約6000年前以前の海面上昇期に,砂州地形の形態の違いに関わらず,最も内陸側の砂州地形が形成され始めていたことが確認された。一方,地域差は,内湾の環境に砂州地形による閉塞の影響が現われ始める時期,および閉塞が完了する時期の違いとして現われることが明らかになった。さらに,最高海面に到達した後の砂州地形は,海側に向かって不連続的に発達していったが,その形成時期は5000ー4000年前と約2000年前の海面の停滞期ないしは低下期に一致しており,これも低地の形態の違いによらず共通に認められた。 本研究の第二の目的は,縄文時代以降に人間活動の場となってきた海岸低地において,地形発達過程と人間活動変遷との関係を検討することであった。具体的には,駿河湾沿岸の浮島ヶ原低地,狩野川河口低地,および清水低地を対象地域として,自然地理学的な方法に基づいて推定された低地の地形発達過程と,考古学調査によって明らかにされた遺跡分布との間の関係を考察した。その結果,浮島ヶ原低地では砂州地形の海側への発達に対応するようにして人間活動の中心が移動した過程をよみとることができた。また,狩野川河口低地では旧砂州地形上が歴史時代の築城の中心になったことが確認された。一方,清水低地では,低地の発達と共に人間活動の範囲が拡大してゆく過程をとらえることができた。
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