研究概要 |
本研究は生理心理学的手法を用いて,学習者が精神運動領域psychomotor domainの教育目標をどのようなプロセスをへて習得していくかを明らかにしようとした。本研究における成果をまとめると以下の3点になる。 (1) スキル習得に至る学習者の生理心理的プロセスを連続的に追跡するためには,授業場面において生理的変化を測定する技法を開発する必要がある。そこで,心理的変化を敏感に反映する呼吸活動の無拘束計測(ambulatory monitoring)を試み,測定値の信頼性と妥当性を検討した。その結果,実験室を離れた場面において生理心理的変化を連続測定することが可能になった。 (2) 我々は体育科教育の授業実践には,教師が経験的に獲得した精神運動領域の教授-学習過程についての経験則があると考えた。それを実証するために,授業実践報告を丹念に読みとり,学習者の認知と運動表出に関する教師の経験則を抽出することを試みた。その結果,スキル習得過程と認知についての複数の仮説群を抽出することに成功した。 (3) 一輪車走行スキルの習得プロセスを追跡することを試みた。個々の学習者の習得プロセスは多様であり,学習速度につも大きな個人差が認められた。しかし,すべての被験者において飛躍的な学習段階が生じていることが確認された。悉無的変化を特徴とする習得は,学習者が見通しを持ちにくいという状況を生む。従って,見通しを与えるための教授方略の導入が教授-学習の成否を決定する重要な要因になることが示唆された。
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