研究概要 |
1.緒言 水の殺菌は、塩系殺菌に代表される薬剤を用いる殺菌法が主流になっている。しかし、最近、飲料水の塩系殺菌過程においてTHM(トリハロメタン)などの発癌性物質が生成することが明らかとなり、人体に対する影響という見地から、これに代る簡易でかつ安全な殺菌法が望まれている。今報告は著者らが開発し代替殺菌法として有望な陽、陰イオン交換膜電気透析殺菌法についてその殺菌効果および至適運転条件について基礎的検討を行った結果を述べたものである。 2.実験 厚さ1cmの中空のセルを用い5室の電解槽を組み、各室の隔膜として陽極側をより陽イオン交換膜および陰イオン交換膜を交互にセットした。膜間距離は1cm、有効膜面積は18.4cm^2である。この電解槽において極室となるI、V室には極液として0.1M-NaCl溶液を流速25cm^3/minで下方から上方へ流し、濃縮室となるII、IV室には0.01M-NaCl溶液を固定した。脱塩室となるIII室には、0.1MNa-Cl溶液に大腸菌を10^8個/cm^3の濃度で懸濁させた試料液を、流速3cm^3/minで下方から上方へ連続的に通過させ、種々電流密度を変えて透析を行い、種々殺菌効果を測定した。 3.結果と考察 試料菌浮遊液を限界電流密度(0.81A/dm^2)を中心とした種々の電流密度下で透析した結果、限界電流密度より低い0.13,0.27,0.54A-dm^<-2>の電流密度では80%前後の生菌率であり、ほとんど殺菌効果は認められなかったが、限界電流密度以上の0.81,1.08A-dm^<-2>の条件では、各々20%,7%の生菌率であり、さらに限界電流密度の約1.4倍以上の1.35,1.63A-dm^<-2>の条件では、透析開始7分後の処理液から生菌率は0%であり、完全殺菌状態となっていた。またNaCl試料液系だけではなくKCl,MgCl^2,CaCl^2,NaNo^3,Na_2SO_4,Na_2HPO_4試料液系においても同様な実験を行ったが、各種陽、陰両イオンを含む試料液系でも類似の現象がみられ、いずれの系でも限界電流密度以上のいわゆる中性攪乱現象が起きる電流密度条件下ではきわだった殺菌効果のあることが判明した。本電気透析殺菌法の殺菌効果は体交換膜中と溶液中のイオンの移動度の差を補充するために起こる水の解離現象、すなわち中性攪乱現象が起こる高電流密度領域で顕著であることからこの水の解離現象により生成した活性化された状態のH^+とOH^-イオンの相乗的作用によるものと推測された。以上、イオン交換膜電気透析系はイオン交換樹脂系より強力な水処理用殺菌法としての可能性を有することが判明した。
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