研究概要 |
貝殻を持たない貝の一種タツナミガイDolabella auriculariaについて、腫瘍細胞に対するin vitro増殖阻害活性を指標にして成分検索を行い、中程度ないし強力な活性を示す数種の新規オリゴペプチドを分離した。これらの化合物について構造解析、全合成研究を行い、以下の成果を得た。 1.ドラスタチンEの立体構造と合成:本物質は立体化学の決定が極めて困難なチアゾリンアミノ酸を有するため、可能な立体異性体(8種)を全て合成することによりその立体構造を明らかにした。 2.ドラスタチンF_α〜F_εの立体構造と合成:これら一連の物質は、N末端に珍しいN,N,O-トリメチルチロシンを有する鎖状ヘキサデプシペプチドである。これらの立体構造は分解反応生成物の光学活性カラムを用いた分析により明らかにし、さらに全合成により確認した。 3.ドラスタチンGの立体構造の解明と全合成:ドラスタチンGは中程度の活性を示し、ヘテロ原子が高度にメチル化されたアミノ酸と新規ヒドロキシ酸から成る分子量1058の35員環デプシペプチドである。本物質の立体構造は、分解反応で得られる5種のアミノ酸の光学活性カラムによる分析、および2種のポリケチドユニットの立体選択的合成により決定し、さらに全合成により確認した。 4.ドラスタチンHおよび異性体の構造と全合成:ドラスタチンHはC末端が3-phenyl-1,2-propanediolでエステル化された、異常アミノ酸含有テトラペプチドであり、イソドラスタチンHはその異性体である。これらは極めて強力な細胞増殖阻害活性を示すが、その収量はタツナミガイ約70kgよりそれぞれ0.3mgと超微量であった。そこで可能性のある数種の立体異性体を合成し、スペクトルデータを天然物と比較することによりこれらの立体構造を決定した。また、大量合成を行いin vivo抗腫瘍性を検定した結果、イソドラスタチンHに抗腫瘍性が認められた。
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