研究概要 |
本研究は植物ホルモン類似の生長調節作用を有するコチレノール類縁体を合成化学的に創製し,構造活性相関に対する基本的な知見と,将来植物ホルモンの作用機能解明に有用な誘導体へ展開するための指針を得ることを目的とした。 まず,コチレノールの3位水酸基の役割解明を目的とし,相当するメチルジチオカーボネート体と,その8,9-ジエピ体を合成し,レタス種子の発芽試験を指標としてそれらの生理活性を評価した。後者には全く活性が見られず,グリコール部の立体化学もしくはそれによって誘起される中央の8員環部分の立体配座が活性発現に重要であることが判明した。一方,前者は一定の猶予期間が観察されるものの,明らかに種子の発芽を誘起する。この猶予期間は,真の活性種,たとえば相当するチオール体が生体内で形成されることに対応していると思われ興味深い。 次いで,将来の機能化への展開を意識し,15位に酸素官能基を有する誘導体を設定し,その合成研究を行った。すなわち,申請者が既に確立していたコチレノールの全合成ルートに従い,相当位置に水酸基を持つシントンを用いて合成を検討した。現時点で合成を完了してはいないが,合成上問題となる部分はなく,近い将来目的を達成できるものと考えている。ところで,その合成中間体,すなわち9位水酸基を導入する前段階で活性試験を行ったところ,コチレノールと同程度の活性がある。このことは,9位水酸基の存在は活性発現に必須ではなく,8員環の立体配座が天然物と同一であり,8位β水酸基が存在すれば十分であることを示しており,今後の誘導体の設計に極めて重要な示唆を与えている。もちろん,15位の酸素官能基が9位水酸基の役割を担っていることも考えられるが,その点の確認は今後の展開にゆだねる。 以上,本研究の目的はほぼ予定通り達成され,同時に今後の指針となる新たな知見を得ることもできた。
|