研究概要 |
高等生物は異なる機能を持つ蛋白質を発現するために、遺伝子の種類や数に頼るだけでなく単一な遺伝子からでも多様な蛋白質を創生できる機構を備えている。 その一つとして択一的スプライシングがあり、その調節には特定のRNAを認識するRNA結合蛋白質の関与が予想されている。NCAM(神経細胞接着分子)の筋組織特異的なエキソン(MSD)の選択は筋芽細胞の筋管細胞への分化に依存した択一的なスプライシングが見られる。 本研究ではマウスの筋芽細胞C2C12,繊維芽細胞C310T1/2などを用いてMSDbエキソンの選択の調節機構の分子的な解明を目的とした。 このエキソン選択の調節領域は非筋肉細胞では選択の抑制に働き,筋芽細胞では分化誘導に伴う選択抑制の解除が見られた。この調節領域は択一的スプライシングに関与する新規のエレメントであった。このエレメントによる抑制解除には筋分化調節転写因子であるMyoDの発現が必須であり,別の筋分化段階に作用する転写因子であるmyogeninとは異なる作用を示した。一方、ミトコンドリア蛋白合成阻害剤などで分化の進行を阻害しても、MSDエキソンの選択には影響は見られなかった。 さらに、この調節領域に結合するRNA結合蛋白質や筋芽細胞の分化に依存して発現するRNA結合蛋白の単離を試みたが、得られたものはArg/Serドメインを有するRNA結合蛋白質である既知のSR蛋白質群であり、新規のものは得られなかった。また、核内のSR蛋白質の単離を試み、分化誘導後、蛋白合成を阻害する条件下でSR蛋白質のアルギニン残基がメチル基の修飾を受けることを確認した。核内では多くのSR蛋白質のほかにもメチル基の修飾を受ける蛋白質が見られ、細胞株による相違も認められた。SR蛋白質では翻訳後のメチル化やリン酸化などの蛋白質の修飾がみられたことから、択一的スプライシングの調節機構への関与で非常に興味深い結果であったが、今後は個々のスプライシング反応についてin vitroでさらに検討しなければならない。
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