研究概要 |
近年脳内の種々の成長因子に対するリセプターがアストログリア細胞にあり、これらの成長因子がアストログリアの増殖に重要な役割を演じていることが推測されてきている。我々は株化アストログリア(未熟グリア)と一次培養アストログリア(成熟グリア)の間で神経細胞由来の成長因子に対する応答性が異なっている事を明らかにし、分化段階の違いにより増殖因子に対する応答性が異なるのではないかという仮説を立てた。この仮説を実証するために培養系を用いて以下の2つの実験を行った。(i)分化型及び未分化型アストログリア細胞に対して既知の増殖因子を投与して、その応答性に違いがあるかどうか明らかにする。(ii)未分化型アストログリア細胞を分化誘導した後既知の増殖因を投与した場合、増殖応答性が変化するかどうかを明らかにする。 上記(i)の実験として株化アストログリア細胞と新生児ラット大脳皮質より得られた一次培養アストログリア細胞を培養皿に蒔き24時間培養した後、種々の濃度の血小板由来増殖因子(PGDGE‐B鎖,最終濃度0.5‐20.0ng/ml),とウシ脳由来塩基性線維芽細胞増殖因子(b‐FGF,最終濃度0.1‐5.0ng/ml)を添加した。60時間後に細胞を回収し細胞数を計測した。(ii)の実験として株化アストログリア細胞をdBcAMP(1mM)で分化誘導した後、PDGF‐B(20mg/ml),b‐FGF(3mg/ml)を投与する。60時間後に細胞を回収し細胞数を計測した。 以上の実験の結果より未分化グリア細胞は2つの増殖因子に対して増殖反応を示さなかったのに対し、分化型グリア細胞は濃度依存的な増殖応答を示した。未分化グリア細胞を分化誘導した後、増殖因子を投与すると細胞数が増加して増殖応答性が出現した。アストログリア細胞は分化段階の違いにより増殖因子に対する応答性が異なっていることが明らかにされた。増殖因子に対するアストログリアの応答はグリア細胞の分化状態とリンクして、増殖反応を微妙にコントロールしていると考えられる.
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