研究概要 |
一過性脳虚血により選択的神経細胞死が発生した脳領域においては、入力線維性シナプス前神経終末は6カ月間以上にわたって正常な形態学的特徴を備え残存するとともに、グリア細胞は反応性グリア細胞として存在することが報告されており、その機能的意義が一体何であるか興味がもたれている。本研究では、スライス・パッチクランプ法を用いて、選択的神経細胞死発生後の脳領域(海馬CAl野)において、残存シナプス前神経終末とグリア細胞が新たな情報伝達の機能的再構築を行うようになるかについて検討した。 スナネズミの脳温を37℃に維持しながら3.5-4分間の一過性脳虚血を負荷し、血流再開2-4日後に全CAl錐体細胞が死に至る完全選択的神経細胞死を海馬CAl野に発生させた。その後,反応性グリア細胞をwhole-cell voltage clampし、グルタミン酸及びグルタミン酸受容体アゴニスト(NMDA, AMPA, Kainate)の直接投与、あるいはCAl野への入力線維であるシャッファー側枝、交連性線維の電気刺激により誘発される電流応答を観察した。その結果、残存反応性グリア細胞はグルタミン酸及びグルタミン酸受容体アゴニストの直接投与に対して明確な電流応答を示し、入力線維の電気刺激に対しては僅かな電流応答を示した。以上のことから、選択的神経細胞死が発生した脳領域においては、標的細胞を失ったシナプス前神経終末がその脳領域のグリア細胞に対して伝達物質の拡散的波及によるいわゆるシナプス外情報伝達を行っている可能性が示唆された。
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