研究概要 |
個体の発生段階において神経軸索がいかに正確に標的細胞を認識し適切な回路網、並びにそれに相応する形態を形成・維持していくかを分子レベルにおいて解明することは生命科学において最も重要な検討課題の一つである。現在最も注目されているaxon guidance cueの一つは成長円錐の退縮ならびに軸索伸展の抑制・短縮を引き起こす因子として同定されたcollapsin(Luo et al.,1993)である。collapsinはpMの低濃度においてニワトリ胚後根神経節の成長円錐を退縮させることから成長円錐上にその特異的受容体の存在が推定されている。同標本において、既にcollapsinによる成長円錐の退縮応答が百日咳毒素、pertussis toxin(PTX)処置により阻害される事実を確認した(Goshima et al.,1995)。この知見はcollapsinがPTX感受性のG蛋白の活性化を介して成長円錐の退縮を起こすことを示唆する。ニワトリ胚後根神経節から抽出したpoly(A+)RNAをアフリカツメガエル卵母細胞に注入しcollapsinに対する応答の有無を検討した結果、collapsinは同mRNA注入卵母細胞においてPTX感受性内向きクロライド電流応答を引き起こす事実を見い出した。同知見を契機とし、最終的に成長円錐におけるCollapsin退縮応答に関与する機能蛋白、CRMP-62(collapsin response mediator protein)を同定した(Goshima et al.,1995)。CRMP-62は軸索伸展期に大量に神経組織に特異的に発現している。CRMP-62は線虫Caenorhabditis elegansにおいて異常な行動を示す変異株より同定されたUNC-33(Robert et al.,1992)と高いホモロジーを示す。。重要な知見はUNC-33との間で保存されているN末端アミノ酸配列(30-48)に対するペプチド抗体が、ニワトリ胚後根神経節細胞内に導入された際、Collapsinに対する成長円錐の退縮応答を特異的に阻害した事実である。UNC-33変異株個体の細胞レベルにおける表現型は、ほとんどすべての知覚神経において軸索輸送の担い手である微小管の異常蓄積を示すことが報告されている(Hedgecock et al.,1985)。
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