研究概要 |
近年軸索輸送に関する研究は、コンピュータ方式によるビデオ増感微分干渉顕微鏡の開発により急速に進歩を遂げている。ことに軸索輸送の生化学に関する研究の発展は著しい。しかし培養神経細胞を用いて、生理的条件下において、軸索輸送の制御機構についての詳細な検討は、一般になされていない。上記顕微鏡を用いて約1万倍の倍率で、軸索輸送を直接観察しながら実験を行ってきた結果、単離培養した交感神経細胞にアセチルコリン(ACh)を投与すると、軸索輸送の、速度、数量とも減少する、可逆的抑制が起こり、この現象はムスカリンリセプタが関与しGi蛋白を介して起ることをつきとた(Bain Res,1992年)。さらに、同細胞にアドレナリンを投与すると軸索輸送の速度、数量共に増加する促進反応が認められ、詳細に検討した結果、この現象はβ2リセプタを介し、アデニル酸シクラーゼを活性化し_cAMPの増加により引き起こされることを報告した(Bain Res,1994)。これらの制御機構には、神経伝達物質が関与し、リセプタを介し、夫々のG蛋白を活性化した後_cAMPの増減によりAキナーゼの活性が推移し,それに伴う蛋白質のリン酸化により起こることがほぼ明らかとなった。さらに、リセプタの神経細胞内の局在と軸索輸送の制御機構の関連を研究するためにマイクロマニピュレータとインジェクタを上記顕微鏡に接続し局所に薬物投与を行った時の軸索輸送の変化即ち、神経細胞の細胞体、神経線維、成長錐の各部位ごとにACh,アドレナリンを投与し観察を行った結果ムスカリンリセプタは細胞のどの部位にも存在し,β2リセプタは,細胞体と成長錐に存在することがわかった(Bain Res,1995年)。また、並行して免疫組織化学的手法でムスカリンリセプタを同定したところ,m2リセプタで在ることを確認した。来年度は,中枢神経系における軸索輸送の制御機構について研究を推進する予定である。
|