研究概要 |
本研究はラット海馬CA1領域の電気刺激によって誘発された長期増強(LTP),長期抑圧(LTD)が海馬の学習・記憶に特徴的な場所ニューロンの空間情報処理様式にどのように影響するか,また海馬体におけるニューロン情報処理様式におけるラメラ仮説を検証することである. (1)上下2カ所の報酬領域を交互に往復すれば報酬刺激が得られる学習課題行動下ラット海馬体から単一ニューロン活動を記録し,場所フィールドを同定した後,Schaffer側枝に一回の高頻度電気刺激(100Hz,100発)を加えた.場所学習行動は高頻度電気刺激によって一時的に障害された.ニューロン活動は刺激直後抑制され,場所依存性は消失した.学習行動の回復後ニューロンの場所依存性はControlと比較して異なっていた. (2)Schaffer側枝の一回の低頻度刺激(1Hz,100発)では2報酬場所学習課題行動は障害されなかった.高頻度刺激と同様,ニューロン活動は刺激により抑制されたが時間経過とともに新たな場所依存性が出現し,場所情報処理の再編が起こった. 以上の結果はLTP,LTDが学習・記憶の情報処理に深く関与することを示唆する. (3)双極タングステン電極を用いて2個のニューロン活動を同時記録し,中隔-側頭方向の機能的つながりを調べた.中隔-側頭方向ではどの位置でも相関がみられ,規格化された相関係数で比較すると相関の側頭方向への依存性はなかった.これらの結果は海馬背側CA1領域におけるニューロン間の機能的結合は緩く広範囲に結合していることを示唆し,ラメラ仮説は再検討される必要があることが明らかになった.
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