研究概要 |
大脳皮質は層状の細胞構築からなり,各々の層に属するニューロンは特定の脳部位との間で神経結合を形成している。これまでにこの層特異的な遠心性結合を形成するための機構として、不適切な層からの軸索伸長を排斥する因子が関与することを見出した。本年度は,皮質ニューロンの軸索投射を抑制する因子の脳内分布とその特性について報告する。大脳皮質切片(生後1-2日)と中脳,視床,または大脳基底核の組織片(胎生16-18日)を共培養し,培養1週間後に固定して皮質浅層からの投射パターンを蛍光色素DiIを用いて調べた。大脳皮質-中脳の共培養では,浅層由来のほとんどの軸索が中脳組織片で排斥されていることが観察された。大脳皮質と視床の共培養でも同様な軸索の排斥が生じた。それに対して大脳皮質-大脳皮質の共培養では一方の皮質切片から発する軸索のほとんどすべてがもう一方の皮質片内に侵入することが見いだされた。また大脳皮質と基底核の組み合わせでも,多数の軸索が基底核組織片に排斥されていが,一部は基底核内に侵入することが分かった。次に各々の共培養で共焦点レーザー顕微鏡を用いてDiIで標識された軸索成長の様子を間欠的に追跡したところ、この軸索の排斥作用がコラプス活性によるものであることが示された。従って、大脳皮質や基底核以外の領域に2/3層ニューロンの軸索を排斥する分子が存在して、2/3層からの軸索投射が脳幹部に及ぶことを阻止しているのかもしれない。さらに、予備的な結果ではあるが、排斥作用を示すことが知られているコラプシンの作用を培養系で調べると、皮質表層からの軸索伸展が反発される傾向が観察された。従って,コラプシンは皮質表層のニューロンの軸索伸長を排斥する作用を持つと考えられる。今後、このファミリー分子についても同様な解析を行うことにより作用の特異性が明らかになるものと考えられる。
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