研究概要 |
高等哺乳動物の中脳にある赤核細胞は,大脳皮質と小脳からの出力信号を受け脊髄に出力を送って四肢の運動制御を司っているが,その回路構成から大脳-小脳連関による高度な運動制御がこの系で起こる可能性が考えられる.例えば,大脳皮質運動野から目標運動軌道信号が赤核へ送られるとともに,制御対象(筋骨格系)を経た運動軌道誤差信号が小脳で計算された結果も赤核へ送られ,2つの信号により新たな運動制御信号を生み出すという魅力的な仮設が考えられる.2つの入力が干渉したときに可塑的変化が起こることが予想され,ネコの赤核脊髄路細胞で,大脳-赤核線維と小脳-赤核線維のテタヌス刺激を組み合わせると,大脳皮質由来の興奮性シナプス後電位(EPSP)が50分以上も増強する長期増強が発現することを見出した.現在入手の難しいネコに替えてモルモットを用いて,同じ操作がどのような変化を産むかを探った.大脳皮質から赤核細胞への投射はサルやラットでは小細胞性赤核にのみ存在するが,ネコでは赤核脊髄路(大)細胞に強力な投射がある.齧歯類のモルモットで回路機構を調べ,モルモットにもネコと同様に赤核脊髄路細胞が存在し,小脳中位核から立ち上がりの早いEPSPを発生する興奮性結合があり,大脳皮質からは立ち上がりの遅いEPSPとそれに続く制御性シナプス電位を発生する興奮性と抑制性の結合があること示した.大脳-赤核線維にテタヌス刺激を与えると,大脳-赤核EPSPが20分以上増強する現象が見出された.このとき,小脳性EPSPや赤核細胞には変化はなく,増強は大脳-赤核シナプスに特異的に発現した.しかし,ネコで見られたような小脳-赤核線維刺激や赤核細胞の脱分極と大脳の-赤核線維刺激を組み合わせても増強は促進されない.以上の結果は,同じ様な回路構成を持ちながら,ネコでは大脳-小脳連関により,モルモットでは大脳由来の入力により大脳性の信号が修飾されることを示唆した.
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